ここでは「江戸川競艇場の完成とその後」として

昭和２６年～４０年頃までの歴史をご紹介しています。 

昭和２６年にモーターボート競走法が成立し、同年７月に「モーターボート競走会及び全国モーターボート競走会連合会の設立並びに監督に関する規則」が制定された。直後、各都道府県知事に競走会の設立について指導がなされ、東京では同年（昭和２６年）１１月にモーターボート競走会が発足された。 

　一方、都議会財務委員会は「モーターボートの性能改善・事業振興・海事思想の普及・観光事業」等の目的で都営モーターボート競走を施行することを決め、都議会にて「東京都は（競馬・競輪に次いで）モーターボート競走を実施する」と決議された。 

東京都主催の「大森競走場」誕生 

　開催する競走場については、他に申請者がなかったことから大森で行なうことに決定。昭和２８年７月、都はこれに基づき申請者である「大森水上レクリエーション株式会社」に対し昭和２９年８月までに完成させるという条件付で競走場建設を承認し着手させた。 

ちなみに、その後「葛飾」「江戸川」の２箇所から競走場建設の要望がされたが、（東京都は競走場の数を２ヵ所と制限されていたため）結果として許可されたのは「大森」と様々な審査や条件をクリアした「江戸川」だった。 

こうして大森競艇は、関東で初めて昭和２９年６月５日から８日までを一節、同１３日から１６日までを二節、同２３日から２６日までを三節として計１２日間開催。入場人員や売上はスタートこそは好調だったものの、日々動員は減少し売上も低下していった。  

 当時考えられた客足減少の要因： 

①競馬・競輪と違って最後の追込みがないため、レースが単純でスリル感に欠けた 

②ファンに競艇の知識や面白さが浸透しておらず、楽しめきれていなかった 

③近隣に大井競馬場・川崎競馬場・川崎競輪場があり、立地的に見ても競合が多かった 

そんな中でも、大森競艇場を盛り上げるべく「ファンへの競艇講座・ビラ配り・人海戦術PR」などの施策を行った。しかし努力も虚しく、ついに昭和２９年度（計１０回）開催における収支は、3700万ほどの赤字となってしまった。 

　この頃、売上以外にも場内の清掃・客用駐輪場の運営・売店の権利・騒音に対する苦情など様々な問題に直面。結果、昭和３０年９月をもって終了とすることが決定した。かくして、モーターボート競走事業の大森における都内初開催は、関係者の努力もかなわず失敗に終わった。 

→同年9月20日、府中市主催による開催がスタート 

→昭和32年、平和島競走場に改称 

　一方、昭和２５年１０月、中川放水路にて日米親善モーターボート競走が行われ、それが契機となって「江戸川にも競艇場を造りたい」と都議会に名乗りを上げ、昭和２８年１１月採択された。翌年の１２月には埋立工事に着工。その背景に、江戸川区は洪水による水害に悩まされ区政発展できずにいたという状況があり、「河川を利用して区を発展させたい！」という地元の強い思いがあった。 

　そして、昭和３０年８月１２日に江戸川競艇場で初開催が行われた。初開催の成績は、下表のとおり（１日の売上目標は４８０万円だった）。  

　その後３年という年月を重ね、昭和３２年度には１日平均1,200万円以上の売上を達成し、当時の全競走場でトップ成績を記録。そしてその翌年には「第５回モーターボート選手権大会」が開催されるまでになった。当時、競艇最大の行事として行なわれていた「モーターボート選手権大会」が、関東でしかも江戸川競艇場で開催されることは当時の最高栄誉とされた。 

本大会では１日平均1,900万円以上の売上を記録。第１回から第４回までの売上記録を更新し、以降着実な伸び率を示しつづけていった。  

　そんな折、昭和３４年に発生した伊勢湾台風を受けて、伊勢湾台風級の高潮に対処しうる防潮堤を設置することとなった。江東地区は都内で最も地盤沈下の激しい区域であったため、護岸のかさ上げを緊急に実施する必要があり、昭和３８年度から３年計画で工事に着手した。

 江戸川競艇場は中川を利用していて（よく誤解されるが、江戸川を利用しているわけではない）、この中川の堤防越しに観覧席と投票所等の施設を設けてある関係上、（堤防より高い位置に観覧席を設置しなければならないため）堤防のかさ上げによりレースの観戦に支障が出ることは必至だった。また、この問題に加え工事による事故防止対策や運搬トラック等による交通事故対策等についても考慮することが求められた。 

　結果として、日本一の売上を誇った競走場も次第に下降線をたどらざるをえなくなった。それでも来場してくれるファンのために仮設パイプスタンドを設け、場内に有線テレビ４台を設置するなどして信頼回復を図った。しかし、なんとこのパイプスタンドヘ登るには８８段もの階段があり、レースごとに登り降りする必要があった。当時のファンはというと「工事のためだからしょうがない」と工事終了後の江戸川に期待をしてせっせと階段を登ってくれたそうで、まさに知られざる地元愛に溢れたエピソードである。  

　江戸川競艇場は、工事終了後の施設改善と新たなファン誘致のため、昭和３９年３月ファンの実態調査を実施した。

 調査の結果、顕著な割合を示した交通機関の問題は、今後の大きな課題とされ、ここから「いつでも気軽に行って帰ってこられる競走場」を目指すことになった。 

　前述の通り堤防が一層高くなったことによって、仮設スタンドや場内テレビ設置の緊急措置がとられたものの“レースが見にくい“という致命的欠点を抱えていた。それに輪をかけて仮設スタンドは敷地面積の関係上、人数制限をかけていたためファンからは「見えない、見せない競艇場」と揶揄され、売上は下降の一途をたどっていた。そこで江戸川競艇は昭和４１年５月、３年にわたる工事が終了するや信頼回復のため「いつでも気軽に行って帰ってこられる競走場」と合わせて「見てよし買ってよしの競艇場」を目指した。 

　江戸川競艇は、「どうしたらよりレースが観やすく、快適に観戦できるのか」ということを考え抜いた。堤防越しの観戦をするためにより高いスタンドを造ろうとすると、結果的に遠い位置からレースを観ることになり、迫力が半減してしまうというデメリットがあった。そこで提案されたのが“堤防を利用した観覧席を新設する”というものだった。そして、昭和４１年１２月に認可を取り、全国初の堤防スタンドが完成した。これと並行して“買いやすい新投票所”の建設も進められ、昭和４１年１２月末の開催から利用された。これで「見てよし買ってよしの競艇場」という目標がある程度達成された。 

ただ、良いことばかりではなかった。この年は、以前にも増して水面状況が悪く中止順延が８日間にも及び、ファンからは少しでも風が吹くような時は電話による問合せが多くなった。このため、様々な波浪対策が検討されたが、画期的な解決方法が見つからない日々が続いた。そんな中、最終手段としてボートの改良に着手し、その一環として比較的波に強いといわれるランナバウトの再採用に踏み切った。ランナバウトは旋回性能がハイドロプレンに比べ悪いため長い間採用されていなかったが、波浪対策としてはやむをえなかったと言われている。 

参考文献：（日本財団図書館）競艇沿革史  